地方移住に関心が高まる中、「どこに住むか」は多くの人にとって最大の悩みどころです。
中でも空き家を選ぶという決断には、興味と不安が入り混じるのではないでしょうか。
「本当に住めるの?」「費用は?」「サポートはあるの?」そんな疑問を抱えながらも、私自身が実際に空き家を選び、移住を決めた過程には、意外な魅力と納得の理由がありました。
本記事では、移住者の視点から見た空き家の価値や決断の背景、そして実際に暮らしてみて感じた変化までをお届けします。
これから移住を考える方にとって、リアルな判断材料となれば幸いです。
移住者が空き家を選ぶ理由と背景
地方移住の増加と空き家問題の現状
地方への移住希望者が年々増加する一方、全国には約850万戸とも言われる空き家が存在しています。
この数は今後さらに増加すると見込まれており、各自治体では対策が急務となっています。
空き家の増加は、防災や景観、治安といった生活環境にも大きな影響を及ぼします。
このような状況の中で、空き家の再利用は単なる住居の確保にとどまらず、地域社会全体の再生や持続可能な地域づくりに深く関わるテーマとして注目されています。
特に、都市部から地方への移住を希望する人々と、使われていない空き家とのマッチングには、大きな可能性と課題が同居しています。
高齢化や人口減少に伴う空き家問題は、もはや地域だけの課題ではなく、私たち社会全体が主体的に取り組むべきテーマになっているのです。
『空き家』に惹かれる移住者の視点とは
都会の喧騒を離れ、自分らしい暮らしを求める移住者にとって、空き家は単なる住居以上の存在です。
「手を加えて理想の住まいを作る楽しさ」「土地の記憶を継承する感覚」「購入費用の安さ」など、空き家にしかない価値がそこにあります。
さらに、古い家屋に流れる独特の空気感や、そこで営まれてきた暮らしの歴史に共鳴する人も少なくありません。
新築では味わえない“物語のある家”に魅力を感じる人が増えています。
また、空き家を活用することが、地域に貢献する一つの手段だと捉える移住者も多く、住まいを得ること以上に「その土地に根付くこと」を重視しているのが特徴です。
私が移住で空き家を選んだ決定的な理由
移住先選びの条件とこだわりポイント
私が移住先を選ぶ際に重視したのは、自然環境・交通アクセス・地域との距離感の3点でした。
田舎すぎず、かといって都会の延長でもない、ちょうど良い“暮らしの余白”が欲しかったのです。
海や山などの自然が身近にありながら、買い物や通院などの日常生活に支障が出ない程度の利便性も必要だと考えました。
また、地域の雰囲気や人柄も大きな判断材料でした。
住民同士の距離が近すぎても疲れてしまうし、無関心すぎても孤独を感じます。
そうした中で「ほどよい距離感」を保てる地域性も、私にとっては大切な条件でした。
そして、古民家や昔ながらの住宅に興味があった私は、空き家という選択肢に自然と惹かれていきました。
空き家バンクとの出会いと選択のプロセス
ネット検索でたどり着いたのが「空き家バンク」の存在でした。
自治体が運営するこの制度は、地域に根ざした住まい探しを後押ししてくれます。
掲載情報は写真付きで、家の状態や周辺環境、価格帯なども明記されており、一般の不動産サイトとは違う安心感がありました。
問い合わせをした際には、自治体職員や地域コーディネーターが親身になって相談にのってくれ、現地見学や地元不動産との橋渡しなど、通常の住宅探しとは違う、あたたかく丁寧なやり取りが印象的でした。
家の間取りだけでなく、近所付き合いや地域活動の情報も共有してくれる点は、移住希望者にとって非常に心強いものでした。
最終的に決め手となったのは、築年数や立地ではなく「地域の人の顔が見えたこと」でした。
費用・制度・地域支援から考えた空き家の魅力
空き家は購入費用が安いだけでなく、リフォーム補助金や移住支援金など、制度面の後押しも充実しています。
物件によっては、空き家取得費に加え、リノベーション費用の一部まで補助が出るケースもありました。
また、自治体や地域団体の支援が受けられることで、「一人で移住するのではない」という安心感がありました。
具体的には、定住支援センターの紹介、引っ越し支援、移住者同士の交流会など、生活の立ち上げを支える仕組みが整っていました。
金銭的な負担の軽減はもちろんですが、「見守ってくれる人がいる」という精神的な安心感も、空き家を選んだ大きな理由のひとつです。
空き家には“買う以上の価値”が詰まっていたのです。
成功事例に学ぶ|移住者目線の空き家活用
自治体の先進事例と空き家対策の実績
例えば長野県や徳島県では、空き家を活用した地域振興策が積極的に展開されています。
長野県では「信州移住応援制度」と連動し、古民家をリノベーションして地域カフェや民泊施設へと生まれ変わらせる支援が行われています。
徳島県では地域おこし協力隊と連携し、移住者が空き家を活用して小規模事業を展開する事例も多数見られます。
こうした取り組みでは、住居の提供にとどまらず、「地域経済への参加」「人とのつながり」「文化継承」といった側面が重視されており、空き家を地域活性化のための社会資源として再評価する動きが加速しています。
自治体によっては、空き家に入居した移住者に対し、創業支援や地域行事への参加を条件に補助金を支給するなど、きめ細やかな施策が打ち出されているのも特徴です。
空き家バンクパンフレットで見つけた活用アイデア
空き家バンクのパンフレットやホームページには、実際に空き家を活用した豊富な事例が掲載されています。
たとえば、DIYで改修したアトリエ、地域住民と共に運営するコワーキングスペース、季節限定の民泊施設、趣味を活かした陶芸教室など、活用法は多岐にわたります。
中には、週末限定の古本カフェや、空き家を地域住民との交流拠点に仕立てた例もあり、単なる住居を超えた「場づくり」としての活用が広がっています。
これらの実例に共通しているのは、「地域とのつながりを大切にしながら、自分らしい暮らし方を実現している」という点です。
こうした事例に触れることで、“次の暮らし”への想像力が広がり、移住に対するモチベーションも高まります。
空き家サブリースなど新しい管理・活用方法
近年注目されているのが、空き家を所有しながら他者に貸す「サブリース」形式の活用です。
空き家の管理や運営を専門業者に委託することで、オーナー自身が遠方にいても負担なく活用が可能になります。
例えば、移住希望者が一時的に居住できる“お試し住宅”として空き家を貸し出し、気に入ればそのまま購入につなげるというモデルも出てきています。
また、空き家を地域NPOが一括で借り上げ、リノベーション後に地域ニーズに応じて貸し出すという仕組みもあり、使い手と空き家のマッチングが多様化しています。
これにより、空き家の利活用は従来の「住む」だけでなく、「活かす」「つなぐ」という視点が加わり、地域資源としてのポテンシャルがさらに高まっています。
空き家の活用方法は時代とともに進化しており、今後ますます多様な取り組みが生まれていくでしょう。
空き家を選ぶ際の注意点と対策
放置物件のリスクと管理の工夫
空き家には「長年放置されていた」「設備が老朽化している」といったリスクもあります。
特に、雨漏りやシロアリの被害、水道・電気・ガスといったインフラの劣化が深刻なケースも少なくありません。
内覧時には、水回り・屋根・基礎・配管・電気系統などを重点的に確認することが必要です。
また、近隣との境界問題や敷地内の樹木・雑草の管理など、建物外のチェックも重要なポイントです。
購入後は、維持管理のために定期点検を習慣化することが望ましく、修繕に備えた資金計画も準備しておくと安心です。
さらに、DIYの知識があると、細かな修理や手入れを自分でできるため、費用を抑えつつ住まいへの愛着も深まります。
地域の工務店やリフォーム業者と信頼関係を築いておくことも、いざというときに心強い味方となるでしょう。
空き家活用にかかる費用と補助制度の活用法
見落としがちなのが、購入後の改修費用です。
老朽化した設備の交換、断熱材の追加、耐震補強など、思った以上に費用がかかるケースもあります。
ただし、自治体によっては最大100万円以上の補助が受けられることもあります。
中には、改修工事費だけでなく、設計費や申請費用まで対象とする自治体もあり、これを上手に活用することで負担を大幅に軽減できます。
また、国の地方創生推進交付金を活用した支援制度や、移住支援金と連動するかたちで住居取得に補助が出るケースもあるため、各種制度を横断的にチェックすることが大切です。
自治体窓口で最新情報を確認し、資金計画に組み込んでおくことが賢明です。
さらに、制度を活用する際には、申請期限や対象条件に注意し、必要書類を早めに準備しておくことでスムーズに進めることができます。
移住者・所有者双方が知っておくべきポイント
空き家をめぐるトラブルの多くは、情報不足や確認不足が原因です。
契約前には登記や権利関係、インフラの現状、越境物の有無、過去の修繕履歴などをしっかりチェックしましょう。
また、相続登記が未了のケースや、近隣住民との境界争いがある物件では、思わぬ問題に巻き込まれる可能性もあります。
移住者自身が事前にリスクを把握し、契約内容や瑕疵担保責任の範囲を明確にしておくことが大切です。
さらに、所有者側にとっても、物件の情報を正確に提示することが信頼構築の第一歩となります。
移住者と所有者の双方が“安心して活用できる”ための準備が鍵となります。
加えて、自治体や第三者団体が間に入ってサポートしてくれる制度を利用することで、より円滑に空き家の利活用が進みやすくなります。
空き家選択がもたらす地域と自分の変化
まちづくりや地方創生への関わり体験
移住後は、町内会や地域イベントに自然と参加するようになりました。
草刈りや清掃活動、地域祭りの準備など、最初は戸惑いながらも手伝ううちに、周囲の人たちとの会話が増え、地域の一員として認められていく実感が湧いてきました。
空き家に住んだからこそ「地域に貢献したい」という気持ちが芽生え、自治体のワークショップや防災訓練への参加、地元商店街との連携企画に関わる機会も増えました。
こうした体験を通じて、自分の暮らしと地域がしっかりとつながっていく感覚を持つようになり、新築住宅では得られない“地域と共に生きる”実感を深めています。
定住実感|『住む』から『地域の一員』へ
空き家での生活を続ける中で、地域の人たちとの信頼関係が徐々に深まりました。
買い物や散歩の途中で声をかけられるたび、「このまちで生きていく」という実感が強くなっていきました。
季節の野菜をおすそ分けしてもらったり、困りごとを相談できる相手ができたりと、人とのつながりが日常の中に根付いていきました。
最初は「住む場所」として選んだ空き家も、次第に「人生の拠点」へと意識が変わっていきました。
そして今では、地域の未来について語り合う仲間ができ、暮らしの中に希望や責任も感じるようになりました。
定住することは、単なる物理的な存在ではなく、精神的なつながりを育むことでもあると実感しています。
空き家選択後の課題とこれから
もちろん課題がゼロなわけではありません。
冬の寒さや修繕の手間、老朽化による想定外の出費など、大変なことも少なくありませんでした。
特に初年度は暖房器具の追加購入や水道管の凍結対策など、都市生活にはなかった工夫や出費が必要でした。
しかし、それ以上に得られる充実感と地域のつながりは、何ものにも代えがたいものです。
自分の暮らしを自分で築いているという満足感、地域と一緒に成長していけるという期待感が、日々の暮らしを前向きにしてくれます。
今後は、同じような移住希望者への情報発信やサポートにも取り組み、自分の経験を誰かの役に立てたいと考えています。
また、空き家の利活用を通じた地域振興のアイデアづくりにも関わり、より多くの人がこの土地に希望を見出せるような仕組みづくりに貢献していきたいと思います。
まとめ
「空き家に住む」と聞くと、古くて不便なイメージを持つ人も少なくありません。
けれど、実際にはその先に“自分だけの物語”が待っていることを、私は身をもって知りました。
空き家には可能性が詰まっており、制度や支援を活用すれば、費用面や不安も十分に乗り越えられます。
そして何より、地域の一員として暮らす日々は、新築にはない豊かさをもたらしてくれます。
もし移住を検討しているなら、空き家という選択肢を一度真剣に考えてみてください。
それが「新しい生き方」の第一歩になるかもしれません。